もう会えない 続・千夜一夜その235

わたしの頭のなかからディーゼルカーのエンジン音が消え去り、駅前の広場で駆け回って遊んでいる子どもたちの声が戻ってきた。ホームからは真っ白な砂浜が見えた。湘南であるとか九十九里にあるような洒落た砂浜で、海との間に広がる白砂の広さや弓なりになって消えてゆく湾の姿は湘南にも劣ることなく、むしろハワイやグアムのビーチと偽れるほどの美しさだった。

海岸を遠くに眺めながら子どもたちの遊び場を横切って海岸沿いの道路へと歩いて行こうとしたそのときに、一人の色の白い幼稚園児ほどの女の子が駆け寄ってきて髪飾りを作ったのだと言って編み込んだ草の輪を掲げて見せてくれた。わたしは、受け取ってそれを頭に乗せながら峠へのハイキングの近道を尋ねてみた。すると、するりと横へ振り返って古ぼけた土壁の家の方を指さして、あっちが近いのと教えてくれた。

すたすたと先に立って歩き出した道は自転車も押して通れないような生活路で、リュックサックが壁に擦れるのを気使いながら車の走る道路へと抜けた。おかっぱに切りそろえた髪がとても可愛くじっと見ていると小さい目は二重で澄み切っており、ぱちぱちとさせながら泣きぼくろをぴくぴくとさせているの見ているととても美しい子だった。上品で可愛い黄色いワンピースが砂で少し汚れていた。

黄色が似合うという表現はこの子のためのものだと思いながら、またねと言って手を振った。こんな子にまた会いたいとふっと思っても、この子にはもう会えないのだと自分に言い聞かせるしかなく、うしろを何度も振り返っては手を振りながらわたしは峠を登り始めた。

平成23年4月29日熊野古道0

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