父の最期の言葉

父の最期の言葉

二十年前の大寒の二、三日後に父は亡くなっている

残された母の話によると
亡くなる日の二三日前には
既に意識がぼーっとしてたらしい

ビールが飲みたいと言うのであるが
こんな状態で飲ましてはならんと思い
お茶をやったという

「ビールと違うやないか、まずいなあ」

言うてやったわ
と あのときを母は回想している

それが父の最期の言葉であったことになる

2018年1月29日 (月曜日)
増殖する(秘)伝

 

広告

便利さと豊かさがもたらすもの ➖ 小寒篇 (裏窓から) 

🍀 便利さと豊かさがもたらすもの

人工知能という言葉をよく耳にする
学生の頃(1975年-82年頃)にそんなことを夢見たが
世の中は振り向かなかった
先取りしすぎで 人工知能学会でさえ数年後に発足したのだから
当時は現実味のない分野だったかもしれない
目指す定義も変化した

わたしは 人間の行動を人工知能という一つのシステムでモデル化することを夢見た
行動科学や認知心理などの方面と医学生理学(脳科学)と情報科学とを融合させるような夢を描いた
コンピュータの性能が格段に向上し夢自体が別のものを目指すことができる世紀を迎えて
わたしが当時の論文に書いた人工知能は歴史上の幻となった

♦︎

必要は発明の母である

しかし便利さと豊かさに満たされた今では必要(や欲望)などは必ず叶うもので
テクノロジーの進化で必ずや実現されてしまうものである

今では発明は必然であり 夢としての姿を もはや抱く人もなく薄れている
ヒトの不満や要望を叶えて自動車の高性能化はますます進む
けれどもヒトはそれをコントロールできずに暴走させることがある
人の心もそれを抑制できずに高速状態での事故を起こしたり
ゲームや酒を抑えることができずにいる

きっと人工知能は人の住む社会をとても便利にするのだろうし満足させるはずだ
だが一方できっと想像を絶するような愚かでアホなことを当然のようにして反省も起こらず事件を必然にしてしまうだろう
知は僅かなマイナスを押し切ってプラスを誇る

原発や戦略兵器がそうであった
情報化社会というシステムの総合体も似たようなもので
視点を変えれば人が生んだ愚かなモノだといえないか

荒んで歪んでゆく人の心を救うことができず傷ついた人を(あるいは心を)綻びを治すように繕うだけだ
やがて
人の住まない街で信号機が動き続けような
荒廃した未来が来るようなドラマじみた風景を想像してしまう

便利さがもたらすものは一つ一つを取り上げれば豊かで幸せなものである

経済は発展し物質文化はスパイラルのように向上する
一方で
間違いなく人間から人間らしさを奪ってゆき
人間から人間らしい能力を引き抜いて潰していってしまう

🍀 困った時には鏡を見る

わたしは成人のころの日記に度々こう書いた
さほど深い意味はその時にはなかっただろう

♦︎

新年にふとしたところで思いつき的に
「常に遠くから見るという視線(眼力)を持って邁進してください
困った時は一歩さがってモノを見る
見えるところまでさがってみるのも勇気」

と書いた

この言葉はありふれた一般的なものであろうが書いたあとで派生する異なることを考えていた

<大きな流れを泳ぎ渡るときに父(オヤジ)の背中と言葉を思い出してください
きっと最初の大きな壁のときにはその人の言葉はチンプンカンプンであるとか意味不明とか時には反発のことがあると思いますがこれが珠玉の金言に見えてきたら相当に一人前に近づいていると思っていいのではないでしょうか>

このわたしの意見はその子に届けることはできなかったがいつかきっと彼も気付くだろうと思う

困った時には鏡を見る
これは鏡に映った自分自身を見つめるのではなく
自分をここまで作り上げ導いた人の情熱をじっと静かに振り返ることなのだ

あの時の父の言葉が蘇ってくるようになれば一人前に近づいてゆく兆しだ

🍀 地震・雷・火事・親父

小寒から成人の日の間の頃になると父の命日も近くなることから様々な後悔や懺悔のことが多くなる
全く幾つになっても進歩のない爺爺ぃである

若い頃とは打って変わって
考え方や生きる姿勢の舵を大きく切った
義理人情の義理などは糞食らえと暴言を吐いていたことがあったのだが

このごろは 義理がこの世を渡る人の心得の中で最も大事なことなのだとまで言う
義理を果たせないような奴は人の屑だ
果たして初めていっぱしの人の道を歩む資格ができるとも言う

最初に書いた「地震・雷・火事・親父」という言葉における自らの対峙の仕方も変化してきている

去年は地震も雷も火事も災害をもたらした年であった

怖いものは怖い
親父なんてものは怖くないと思っていた時もあった
今でもそうでもないのかもしれない
逝ってしまって二十年も経てば鬼ような怖さは全くない

世の中の最も怖いものがわたしを睨みつけているとするならば
その後ろでもっと怖い眼で睨んでいるような気がするのが親父ではないか

若者よ 心に鬼を棲ませなさい