雑感を書き残しておく
断片記述とします
なあビール飲みたいわ、くれるか
このビール味ないなあ
これが私の父の亡くなる間際の最期の言葉だったらしい
小池真理子さんが夫を失ってから一年間書き綴った随想を読みながら幾度も頭の中には父の言葉が蘇ってくる
ビールが好きなわけではないし、お酒が飲める人でもなかった
晩酌をしている姿もそれほど記憶にないし、酔いしれて饒舌に喋る姿なども思い当たらない
だからこそ ビールくれと言った言葉が本当かどうか疑わしいし、しかしながら、それなりに絵に収まるのだから、死ぬまで自由で気ままだったように大勢に思われて幸せにこの世を去れたのだろうということにしている
私が私にそう言い聞かせている
死に際には間に合わなかったというか誰も私に急いで帰ってこいと知らせてこなかった
後で考えても一体どういうことだと言い出しても良かったのだろうが、こんな風に冷静に振り返れるようになったのは何年も何年も過ぎてからのことだった
だからその思いは誰にも話したことはない
父の年齢が刻一刻と私に近づくにつれ往生際のことを考えることが多くなって、六十六歳にまであと一年と迫るこのごろは毎日一回は最期の言葉に出来そうな文句でも浮かばないかと考えている時間がある