大寒が過ぎた
この冬になってから寒い日が続くことがあったものの 寒中にかかってから幾分温い日が巡り来て 大寒の時期も窓や庭の木々が凍てつくまでに冷え込むことはない
寒さに慣れるように知らぬ間に我慢をする習慣のせいか 部屋の温度設定も低めにすることが多くなっている
気合というつもりはないが、少々寒いぎみのほうが頭もスッキリすると考えがちで しかしながらも 身体は自然に従順らしく 毎日の血圧測定値が微妙に変化を表わし 高血圧アラームの出る要注意が続く
僅かな数値の差を気にしながら塩分表示のある食材との睨み合いが続く
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『サ高住』から届く日々の様子の話にも大きな変化はなく 正月に罹ったコロナも完治して 生活リズムは元通りに戻った
いつものように部屋に行きおかしな電話がかかってきてないかなどを確認しながら ケータイ電話の着信履歴に孫のリストを見つけたので 調べるとコロナの完治直後に孫が母さんと二人で訪ねてきてくれて 鰻を食べに外出したらしい
それがわかったので驚きながら とーさん に「孫が来たのか」と問うたら「記憶にない」と言うので 親子できて鰻を食べに三人で出かけたことを忘れていた・・らしい
去年一年間には一カ月おきの頻度で来てくれる孫のことを 会いにくるたびに聞いてやると「来てくれてご飯に行った」と嬉しそうに覚えていたののに 先日の来訪は記憶にな口なっていたことを ウチの人は 諦めな口調でながら悲しそうに説明してくれた
これは ある意味では とても大きな変化なのだが、最早や大騒ぎにもしない
記憶の衰えが着々と進行するものの 食事や日常の会話に 大きな変化はないと 施設の人は説明をしてくれる
食事やテレビの相撲などの以外では 相変わらず暇なの寝てばかりだが 定期的に来る訪問ショップでの買い物もしているという
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(こうして記憶が衰えてゆき 近親の人まで頭の中から順番に消えていき やがて静かに目を閉じたままになってくれ)
一度も顔を見せに来ない長男は「サ高住」での状況を風の便りにも聞いて そう考えているのだろうか
詳しい事情は知る由もないが 深い事情があるに違いない。不仲な親子というのがこの世にはあるらしいので 面会にいけない忸怩たる想いを胸に 遠くからそっと見送ろうと思っているのか
人間関係も広かった人であるから ほかにも この人を見守る人はあろうと思うが 顔も見せに来てくれない人があるのは それなりに諦めているのかもしれない
病院に入院するなら退院の見込みがあって元気になろうというものだけど 『痴呆脳』になって『サ高住』暮らしをし始めたら 未来の道は紛れもなくたったひとつだ
おばあさんも百二歳で亡くなっているが みなさんに きっと「大往生」という言葉で感謝されながらだったように思う
しかし 現実の 本心は 誰も言わない
誰もそのことを口には出さず 治療の手立てや希望にも触れることなく 未来に灯りが残されているというベンチャラじみたようなことも口にすることもない
病人ではないから見舞いには来ない
『痴呆脳』の記憶と命が萎みきってしまうのをじっと待っている
私にはそう思えて仕方がない
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